磯部 今のサポートメンバーとはずっと一緒にやっていくつもりでいるんですか?

峯田 いや、今のところは、このメンバーでやるのが気持ちいいかなって。でも、ギターやりたいとか、ドラムやりたいとか、誰かいれば「やる?」みたいな感じ。

九龍 この間、新体制の銀杏のライヴを幕張メッセで見たんだけど、銀杏を見たことないっていう若い子たちがたくさんいて、「あの銀杏BOYZのライヴが見れるんだ!」みたいな空気になってたのね。そこで一曲目に「生きたい」をやったんだけど、あの曲は「人間」「光」と続く三部作的な位置づけもあると同時に、峯田君一人の弾き語りから始まって、途中から新しいメンバー編成のバンドセットに移行するので、今の銀杏BOYZのプレゼンテーションにもなってると思った。

磯部 GOING STEADYと銀杏とではメンバーはほぼ同じだけど、音楽性がガラっと変わったように言われてましたよね。ただ、実際にはGOING STEADYの後期=「童貞ソー・ヤング」辺りから徐々に変わっていって。一方、銀杏第一期と第二期とではメンバーはガラっと変わったけど、音楽性は峯田くんがシンガーソングライターとして引き継ぐんだっていう宣言のように聴こえた。「生きたい」は。

峯田 本当はものすごいポップな曲を歌いたい。でも、メンバー抜けたとか、失恋したとか、自分の悔やむところとか、無念なところとかを出した上で、そこからスタートしないとダメだっていう風に思っていて。だから「人間」、「光」の次に、「生きたい」を出さざるをえなかった。

九龍 「光」は部屋の中で基本的に閉じこもってる曲だけど、「生きたい」は部屋の外に出たよね。街を彷徨って何かにしがみつこうとしている。

峯田 「生きたい」では最後、電車の中にいるんですけど。自分の中ではやっと終われたかなっていうのがあって。

磯部 重い曲調だけど、「あいどんわなだい」…つまり、「死にたくない」っていう消極的な表現から、「生きたい」っていう積極的な表現まで、9年かけて、ようやく、半歩進んだっていう風にも捉えられますよね。

峯田 メンバー抜けて一曲目新しい曲でどれがいいかなってなった時に、きらびやかで、決意表明で、これから頑張りますよっていう歌は、作れなかったんです。それまでに溜まったものを出すっていう曲を作るしかなかった。

磯部 要するに、新たな出発を宣言するっていうよりは、落とし前をつける曲だと。

峯田 震災の時にこうゆう曲作ろうって思ってたんだよね。最初は、原発とかに対して、自分はこう思うっていう曲で。でも、だんだんだんだん自分のパーソナルな歌詞になって、原発とかそういう対日本みたいなやつはどんどん少なくなってちょっと残したぐらいで。光があるから、「光のなかに立っていてね」に入れようっていうのはなかったんだけど、次はこれだなって思ってた。

磯部 村井君は、新曲をどう聴いたんですか?

村井 「自分と向き合ってるなー」って思いました。俺、全然向き合わないから。

峯田 どこかメンバー抜けちゃったとか、俺の責任みたいなところがあるから。そういう個人的なものもあるけれど。みんな普通にSNSとかLINEとかで、彼女とか奥さんがいるのに脇でいじってさ。秘密を生みやすくなったじゃん? 麻痺しているとはいえ、誰かや何かに対してゴメンなさいみたいな気持ちはどこかにあるんじゃないかって俺は思っていて。その気持ちを否定するんじゃなくて、抱えたままでもいいんじゃないかって。

九龍 でも、かつての峯田和伸は「お前、全部さらけ出せよ」って人だったわけですよね?

磯部 それこそ、かつては峯田くん自身もプライベートを曝け出してたしね。

峯田 「僕たちは世界を変えることができない」っていうタイトルで、ドキュメントの映像作品を作った時から「世界との戦いだ」っていう意識はなくて。抱える罪はみんなに等しくあると。オール肯定じゃないけど、全部正義とか悪なんてありえない。曖昧なところに何かがある。そこは肯定したいと思うんだよね。

九龍 今回、特に映像でいいなって思ったのは、バンドでの演奏が終わった後に入っているシーンで、峯田君が自宅で一人、トイレやシャワーにいるっていう。そこに孤独に感じるって言えばそうなんだけど、あまり寂しい感じでもなくて。峯田君の今の心象風景みたいなものがよく出てるなって思ったんだよね。

村井 それは俺も思った。「そんなもんだよ」って感じがしましたけどね。

峯田 お客さんはどっかでね。「峯田、寂しい奴だな」って思うのは当たり前なんだけど、でも別に本人はそうでもない。

村井 トイレして、うんこして流すくらいのもんだよって。

九龍 ステージを降りたら、一人の人間の生活なんだなってそれくらいに思えたのはとても良かった。

磯部 そうか。俺、「生きたい」に関しては、「肯定する」ようなイメージは感じなくて。
「罰しなければ」ってフレーズが耳に残るのもあって、「光」からさらに追い詰められたような印象を受けたけど。むしろ、「ぽあだむ」の方が抜けてるっていうか、その次のステージだと思った。だから、さっき話を聞いていて、「生きたい」は始めるのではなく、終わらせる曲≠チていうのは「なるほど」なと。

峯田 次に新しいアルバムを作るとして、広い目で見ると「業の肯定」に見えるんだけど、新しい曲に関してだけで見るとまず自分を断罪する。で、終わりではあるんだけど、今まで自分が抱えてきたものをこの曲で丸ごと捨て去る。

磯部 心にいろいろなものを抱えながらも、乗っている電車は進んでいくわけだから、そういう意味では次を予感させるような曲なのかもしれないですけどね。

村井 長いじゃないですか、曲。でも、ピアノのバックだけでちゃんと聴いてられるんですよね。長い曲ってだいたい途中で飛ばすでしょ? 僕は曲に意味とか求めないんで。長いけれど、ちゃんと聴けるんですよね。

峯田 ……音楽を20年やってきたとはとても思えない。作り手として、やっぱやめてよかったよ、お前。批評性がない。

磯部 (笑)。「生きたい」があれだけ重い曲調であれだけ引っ張れるのは、やっぱり、歌詞にちゃんと文章としての魅力があるからだと思ったな。


九龍 俺、新しい銀杏BOYZは、バンドもいいんだけど、何度かライヴを見た峯田君の弾き語りスタイルも面白いと思ったんだよね。

峯田 これからツアーやるときには15曲ないし、20曲するとしても、前半バンドで始まって5〜6曲やったら、メンバーが捌けてアコギでやるってのもいいかなって思ってる。で、最後はまたバンドみたいな一連の流れ。ここ1年半ぐらい一人でアコギでやってて。それで空気を支配するっていうのも面白いなって思ってる。

磯部 あと、「生きたい」を聴いて感じたのは、さっきの村井くんの話じゃないですけど、元メンバーはバンドを辞めて、今はまた別の人生を歩いてるわけじゃないですか。で、この曲を単純に峯田君の人生の経過報告として聞くんだとしたら、「このひとはずっと以前の銀杏の延長線上で生きてるんだな」って。

村井 峯田が、銀杏BOYZと別の方向いくってちょっと考えらんないすけどね。そういう道もあるかもしれないですけど。 

峯田 いや、でも、俺はあるよ。ドラマに出るとか……。10年間を否定はしないけど違うとこ行こうっていうのはあるよ。やりきったから。

九龍 さっきも言ったけど、それはすごくあるな。「峯田和伸」と「銀杏BOYZの峯田和伸」とが、ちょっと分離してきている。そして、逆に割り切って、音楽の中で「銀杏BOYZ」をやろうとしている。そういうモードを感じた。

磯部 ただ、それが出てくるのは次の曲なのかもしれないですよね。「生きたい」に関しては、今までのコンテクストの延長線上にある。もしかしたら、その先はデッドエンドに続いているのかもしれないし、あるいは次のステージがあるのかもしれない。……ところで、峯田くんは今、幸せなんですか?

峯田 今ですか、いい感じです。

磯部 「幸せになりたいよ」ってリフレインが曲中にありますけど。

峯田 これは僕の体験じゃないんですけど、ある人が、出会い系で女と会って……ホテル行って散々ヤって。その日、2012年のアジアカップサッカーの決勝の日だったんですって。で、日本が優勝決めて。それを二人で観てからまたヤッて。ラブホテルって時計も何もないじゃないですか? 何時かもわからないそんな空間の中で、その女の子が急に「私って幸せになれるかな?」って聞いてきたらしいんですよ。その話を聞いて、それってすごく音楽的だなって思って。

九龍 時間を失った瞬間、ふと未来を思ったんだ。

磯部 なるほど。自分の話じゃないんだ? それは確かに今までとは違う歌詞の書き方ですね。

九龍 これまでよりも歌詞にカメラアイっていうか、客観視する目線があるよね。だから、かつて以上によりその世界にディープに没入しても大丈夫っていう。前はそれやると、生活から何から破綻する人生だったんだろうけど、今はもう一枚底がある。銀杏BOYZという方法を改めて選びなおしたっていう感じがしたな。

村井 前から客観的なところはあったよね。

峯田 まあね。意識的になったのは最近だけど。もっと意識的に。

磯部 このDVDに記録されている、暴走列車みたいな銀杏BOYZから脱出したのは、辞めた三人だけじゃないのかもしれないですね。峯田くんもまたそこから飛び降りた。つまり、今の銀杏っていうのは同じようで、全然違うものとしてあるのかもしれない。

峯田 これから結婚とかして、自分に子供が生まれたらどういう曲とか書くのかなって、すごく興味ありますけどね。曽我部(恵一)さんみたいになるのか。また違う風になるのか。わかんないけど。今はとりあえず、中野区に住んでる俺の一人暮らしの中からしか出てこない。もしかしたら取材とかしてみて「これ歌詞にすっか」みたいなのもいいのかもしれない。でも、やっぱり自分の暮らしの中から出てくるものって当てになるからなぁ。メールがそのまま歌詞になったりするからね。

九龍 峯田くんの場合、そういう歌の種みたいなものは尽きなそうだよね。ただ、それをどうアウトプットするかは変わっていくのかもね。歌舞伎とか見ていると、もともとは衝動とか、偶然だったものが、様式化したのがわかるんだよね。そんなふうに銀杏BOYZが型になってしまうのも困るし。年をとった峯田和伸がマイク噛んで、「待ってました!」ってなったりしたら、ちょっとね……(笑)。

峯田 うーん、芸にしたくはないっていう感じですよね。過渡期のままにしたいっていうか。「峯田は、これやらないとなー」っていうのにあんまり乗りたくない。芸にしたら楽な部分いっぱいあるから。

磯部 実際、GOING STEADYから銀杏BOYZへの飛躍があったからこそ、今があるわけじゃないですか。

村井 あの頃、ライブ終わった後、結構言われましたよ。えーこういう感じなんですかって。ちゃんと演奏しないんですねって。

峯田 ちゃんと演奏しないがテーマだったからね。本当は前のアルバム(『光のなかに立っていてね』)が出たらツアーで、全国回れればよかったんだけどね。

磯部 「もし、あの頃の銀杏が続いていたとしたら?」みたいなパラレルワールドって想像します?

峯田 たまにある。夢見るもん。

村井 それは たまに俺もありますよ。

峯田 一ヶ月に一回くらい見るんだよね。

村井 前にみんなでツアー回ってる夢を見たことがあったんですよ。で、次の日、満員電車乗ってたら、急に涙が出ちゃって。辞めて1年以上経ってたんですけど「アァ、俺、こういう感情あったんだな。ツアー回りたかったんだな」って思って。

磯部 「生きたい」の歌詞みたいじゃないですか(笑)。さっきは、「バンドを辞めても生活はあんまり変わってない」って言ってたけど、そういう感情もあったんですね。

峯田 あんまり言いたくないんですけど、レコーディングが本当に長くていつ終わんのかなって思ってて。でも、これさえ終わればツアーが回れるぞっていうのを糧に生きているところがあったから。いざ終わったら、メンバーが居ないっていうのは、すごい経験でしたね。

磯部 そりゃなんのためにやってたんだろうって思いますよね。もちろん、作品は残ったけど。

峯田 作品は残ったけど、みんな死んでったなっていうのがあって。DVDの編集が終わった時は、生では見せられないけど、全国リリースで、やっと姿を見せられるなって思いました。

磯部 つまり、このDVDは4人の銀杏BOYZにとっての最後のツアーでもあると。「生きたい」はエンディング・テーマ的な感じ?

峯田 そうですね。だから、ドキュメント的な要素は入れないでいいやって思ったし。今回は楽屋でのオフ・ショットは入れないで、もうライブ映像だけ。字幕とか日付も入れないで、時系列無視して。テロップは「どうかこの世界がひとつになれませんように」って、あれぐらい。

磯部 シングルに関しては、そういうデッドエンド感のある曲の後に「ぽあだむ」のリミックスが入ってるのは救われますけどね。これって、ストリングスは新録?

峯田 詳しくはあえてクボタ(タケシ)さんに聞いてないけど、でも、生で録ってるところが多いって言ってた。

磯部 それにしても、「ぽあだむ」はすごい曲だと思うなあ。

峯田 え、うれしいなあ。


九龍 あの曲がまだ発表される前の時期に、お客さんの前でやってる映像もDVDに入ってるけど、お客さんがちょっと戸惑っている感じもよかったよね。聴いたことがない曲っていうのはもちろんなんだけど、かぶりつきで熱狂していた人たちが、急にポカンとしている感じが面白かった。

磯部 政治的なトピックを扱った歌に関しては、いろいろブーブー言うタイプなんですけど、あの曲に関しては不謹慎なところがいいなって思って。要するにあれって、計画停電があって、暗い東京に居心地良さを感じてるって歌ですよね。それまで、自分の部屋っていう暗い閉じられた空間だけで落ち着けたのが、東京が同じような状態になって、初めて外に出て行けたっていう。それを臆せず歌ったのはすごいと思いますけどね。

村井 あれっすよね。震災の文脈で語ると悲劇でしかないけれど、自分の生活の文脈で語ると違う見方ってあるじゃないですか。僕はそう思いました。

九龍 「ちびまるこちゃん」の大洪水の回もちょっと思い出した。あれ静岡の七夕豪雨の話で、かなり大規模な災害で街中大変なことになっているんだけど、子供たちは屋上に避難している非日常感でテンション上がっちゃうっていう。

磯部 東京はそれぐらいの被害で済んだっていう話なのかもしれないですけどね。というか、東京に住んでると、良くも悪くもそれくらいのリアリティのはずなのに、「震災で人生が変わった」とかうそぶいてるひともいて。それよりかはよっぽどリアルな歌だと思う。そういえば、アルバムが出た時のインタヴューで、「ぽあだむ」は小沢健二の「強い気持ち・強い愛」の2011年版じゃないか≠チて話もしてましたよね。あの頃の東京はキラキラして好きだった。そして、計画停電の時も暗いけどキラキラして見えたって。

峯田 たった4日間だったけど、暗くて……そこに、東京の未来を感じたんだよね。いい未来。

九龍 あの時そう感じた人は、少なくない人と思うよ。

磯部 震災ユートピアみたいな?

峯田 これから東京オリンピックが開催されて、国民が一つになっていくっていうのが全く感じられないんだよね。64年オリンピックのような感じには絶対なんないし、そういう風にしようとしているのが気持ち悪いしね。

九龍 無理だろうね。

峯田 結局、一つになることって、悲劇になっちゃうかもしれないんだけど。

村井 あの頃はよかったって、元に戻そうとするからね。

峯田 視聴率20%の番組なんて絶対出てこないし、

磯部 ちなみに、峯田君はずっと村井君みたいな同世代とバンドを組んでたのが、ここにきて若い人と組むってどういう感じ?

峯田 僕にはない感覚だから常に、話は通じないこともあるんですけど。一緒にやってて、面白い。共通言語がないんだけど。面白い。ところで、村井君は最近音楽、聴いてるの? 好きなバンドとかいる?

村井 ビーチハウスっていうバンド聴いてる。

磯部 普通の音楽好き大学生みたいなチョイスですね(笑)。じゃあ、最後に村井くんの今後を聞いて終わりますか。

峯田 そうだね。お客さんも気にしてるからね。

村井 今後? 全然考えてないな。何も考えてないです。

磯部 プロデューサーになって。

村井 そうっすね。恋愛して、再婚ですね。

峯田 番組は?

村井 いやいや、番組作りとかはやりたいですけどね。自分の番組作りたい。でも、それも、どんな内容っていうのもぼんやりしてるんで。ないんです。ただただ、自分の番組作りたいってだけで。

峯田 目標にしてる番組ってあるんですか。アメトークとか?

村井 ああ、いい質問ですね。二人喋りがいいっすね。

峯田 ありきたりだなー。民放に夢はあるんですか?

村井 夢はあるんですよ。みんな見てないけど、見てる人は見てるんですよ。

九龍 そりゃそうだよ(笑)。

峯田 ネットとか面白くないっていうくらいの番組を作りますとかないの?

村井 それがよかったね。それ言いたかったな。

九龍 プロデューサーとして、銀杏BOYZより有名にならないとね。

村井 いま、テレビってちょっと元気ないんですよ。でも、銀杏BOYZにいた村井が入ったことで、元気になったっていつか言ってもらえたら……それがいいなって。

峯田 でも、村井くんならなんかやってくれるって俺は思ってるから。村井くんだったら、しでかしてくれるって。

村井 俺、やらかしたいんすよ。

磯部 逮捕系はやめてくださいよ。

村井 それ同じこと言われました。入社した時に「俺、銀杏BOYZみたいなことやりたいんすよ、やらかしたいんすよ」っていったら、ちょっとスタッフさんが怒っちゃって「テレビで銀杏BOYZやりたいって意味わかんない。何言ってるんだ君は!」って(笑)。

峯田 銀杏BOYZやってろって話だもんな。

 
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■磯部涼
音楽ライター。単著に04年?11年の原稿をまとめた『音楽が終わって、人生が始まる』(アスペクト)、共著に九龍ジョーとの『遊びつかれた朝に----10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』 (Pヴァイン)、編著に風営法とクラブの問題についての論考集『踊ってはいけない国』シリーズ(河出書房新社)等がある。

■九龍ジョー
ライター、編集者、その他。『メモリースティック ポップカルチャーと社会をつなぐやり方』(http://amzn.to/1PNNyQP )など。

■村井守
現在はテレビの制作会社に勤務。役職はアシスタントプロデューサーである。