3月某日の下北沢にて、峯田和伸と村井守に加え、銀杏BOYZとは古くからの付き合いである音楽ライターの磯部涼氏と、同じくライターの九龍ジョー氏を招き、リリースしたばかりの映像作品「愛地獄」のことや、シングル「生きたい」のことを話題の軸にした座談会を行った。
構成:小田部仁
写真:村井香
九龍ジョー(以下、九龍) よく編集しましたね、DVD。峯田君が次の段階に進む前に、やっぱりこれが必要だったのかと。正面から銀杏BOYZの歴史をなぞりながら、ライヴをちゃんとコンパイルするっていう作業が。

峯田和伸(以下、峯田) 普通ライブDVD出すんだったら、この日のライブを作品化するっていう企画がちゃんとあって、カメラもこう撮ろうぜっていうのがあるじゃないですか? でも、そういうのじゃないんですよね。たまたまいつも撮られているような映像があって、でも、編集してみたらそれで成立してて。あぁ、これでいけるなと思って。

磯部涼(以下、磯部) 正直、アルバムを出した後、次はライブDVDだって聞いて、「ああ、またか」って思ったんですよね。「また活動が止まっちゃうんだろうな」って。実際、『僕たちは世界を変えることができない』の時も、編集にかなりの時間がかかって、そのせいでなかなか音源が出なかったわけで。

九龍 この人たちはなんでも自分たちでやるからね(笑)。村井くんは、コメンタリーの収録で「初めて見る」って言ってたけど、どんな気持ちで見てたんですか?

村井守(以下、村井) もう、お客さん目線になってるかもですね。

磯部 今、どういう距離感なんですか?

村井 バンドと?

九龍 そう、銀杏BOYZ時代の自分と。いまはミュージシャンもやめてるわけだし。

村井 生活はあんまり変わってない気がするんですよね。仕事は全然違いますけど、ただライブやってない。演奏してない。峯田と会ってないっていう。

磯部 それ、まるっきり変わってると思うんですけど(笑)。それでも「あんまり変わってない気がする」っていう感覚なの?

村井 そんな変わんないっすね。

峯田 俺は、もっと会ってもいいかなって思ってるけど。相談できる友達ってもう周りにいないからさ。

磯部 村井くんがバンドを辞めることが決まった時、峯田くんは最初、「スタッフになれば?」って言ってましたもんね。

峯田 そうそう。最初は、マネージャーとかいいんじゃないかなって思ったんだよね。銀杏から離れて客観的になれるじゃん? そういう形で参加してもらえるかなって思ってたんだけど。メールとか全然こないし。ほかの知り合いとかと話してると「村井くんとこの前も会ってさー」みたいな。周りとは結構会ってんの。なんで俺と会ってくれないのかなって。

村井 そんな。避けてるとかじゃないし。

磯部 で、DVDは、どういう風に見たんですか?

村井 懐かしいとかではなくて……ベタですけど、昨日のことのように見てましたね。

峯田 チンくんは広島に映画を奥さんと子供連れて観に来たらしいです。俺会ってないけど。

村井 それはチンくんから「観たよ」ってメールがきたの?

峯田 映画館の館長さんから教えてもらった。

九龍 横川シネマの溝口さんか。『僕たちは世界を変えることができない』の時もあそこで上映したもんね。

峯田 昨日、中村さんいらしてって。最初、俺も広島行くから舞台挨拶もするし、チン君もその日ゲストでどうかなって打診してたの。「ごめん、その日用事があって」って言われてたんだけど、前の日に来てくれたらしい。

村井 俺も舞台挨拶呼ばれたんですけど、行けなかったんですよ。

峯田 避けてるでしょ。

村井 避けてねえわ! 忙しいんだよ。

峯田 だって、東中野だったら来れんじゃん。俺、2回やったんだよ。ポレポレで舞台挨拶。

村井 行けなかったんだって。今日のだってやっと来れたんだよ。

九龍 いま、テレビの仕事でけっこう忙しいんだよね、村井くん。

磯部 フリー?

村井 フリーでやれないでしょ! テレビの制作会社入って『チマタの噺』っていう番組をやってて。

磯部 じゃあ、初めてのサラリーマン生活だ。どうですか?

村井 うーん。最初はやっぱり、なんかやりそうだって空気が出てたんですよ。だんだん時間たってくると、ポンコツだっていうのばれてくるから、あんまり自分出さないようにしてる。

九龍 ははは! 期待の大型新人だったのが……(笑)。

村井 メールも1日3件くらい送るとめっちゃ疲れて、頭痛くなるから。

峯田 おまえ、それでいいの? そんなんがやりたくて、東京きたの? 勢いで最初はその会社に入れたのかもしれないけど、結局さあ、普通になっちゃったわけじゃん? それでいいのかよ?

九龍 今回の映像見て、「あん時の俺、輝いてたな〜」とか思ったりします?

村井 その目線は全然ないんですよね。割と今も思っていることやれているのかなって。自分は前に出るほうや座席に立つ方じゃないんですけど、試合してる人たちを見て、もうちょっとこういう風になったらなって動かせている気はするんですよね。

磯部 今から振り返ってみて、銀杏を辞めたこと、音楽を辞めたことって、村井くんにとって挫折ではないんですか?

村井 挫折ではないです。

九龍 やりきったって感じ?

村井 やりきったって、もしかしたらその時言ってたかもしれないんっすけど。やりきったって、ちょっと嘘くさいですよね?

峯田 言ってたよ、お前。

村井 今思えば、嘘くさいですけど、その時は、本当にそう思ってたんだよね。

磯部 「俺が看取って辞める」くらいの感じのこと言ってましたよ。

村井 言ってましたよね。でも、今考えると、やりたいことあるんで、やりきった……ってないなって思うんですけど。その時はそう思ったんです。あ、もう、俺はやりきった……バンドやりきったわ……ってその時は思ってたんで。

峯田 でもさ、たまーにさ、ふとさ、一人で家いるときに、あの時バンド辞めてなかったらなって思う? いまこっちの選択肢にいるけど、もしあの時、峯田と二人でしゃべって、こっち選んだらまた違ったなとか思う? 

村井 それは……もしかしたら、バンド辞めてなかったら、自分の離婚とかはなかったかもなってのは思いますね。

磯部 離婚は脱退が原因なの?! 負のスパイラルじゃないですか。

峯田 でも、奥さんはバンドやってがんばってる村井君のこと絶対好きだったし、レコーディングとかで忙しくて、奥さんのことかまってあげられない時もあったけど、でもレコーディング終わったらやっと……って感じだったのに。

九龍 でも、ここ(峯田と村井)だって、言ったら「別れた夫婦」みたいなものでしょ? 

峯田 俺はまだバンドやってるから音楽やってるから、まだいいんですけど。辞めた人間ってさ、どう思うんだろうなって気になるんですよね。俺がドラマ出るにしても、シングル、DVD出すにしても、露出があるわけでしょ? その情報って目に入ってくるでしょ? それ見てどう思うのかなって。

村井 それは、普通に生活していて、たまたま情報入ってくるっていうよりは、割と俺が積極的に見てるから。ホームページとか。

峯田 それ、別れた元カノが元カレのFacebook調べたりとかエゴ・サーチする感覚だよね? どうなのそれ健康的なの? それでべつにいいんだ?

村井 それでいい。頭抱えるようなことはない。うわーとか、嫉妬とか、ない。

磯部 じゃあ、何が動機で見てるんですか?

村井 それは、もう日課ですね。銀杏のホームページを見るっていうのが日課なんすよ。

磯部 バンドの頃の習慣が残ってるってこと? 関係ないのに?

村井 今の会社でやってる仕事が、ただテレビやってる人じゃないんすよね。 "元銀杏"って周りが認識している環境なんで。あんまり生活が変わってる感じがしないというか。やってることは違うんですけど。

峯田 将来いつか自分がやってることで、俺を自分がやってるフィールドに持って来たいとか、そういうのはあるの?

村井 それは……ちょっとあるね。

峯田 番組出て欲しいなとか?

村井 でも、怒られるっしょ……。こういう番組があるからってオファーしても「面白くねえわ」とかどうせ言われるから。そんなの持っていけないでしょ。

磯部 今ここでオファーしてくださいよ。

峯田 友達だからつって、軽々しく受けないけどね。

村井 直で峯田にいけないでしょ。マネージャーに一回通して、相談して。

磯部 だから、ホームページ見てるんだ? 「スケジュール空いてるかな」って。

村井 そうそう、「この辺、いけるんじゃないかな?」ってチェックしてね……。ちなみに、俺、別れた経験って今までなかったんだよね。

九龍 そうだよね、初めてつきあったのが元・奥さんだもんね。

村井 まあ、さっき、九龍さんが言ったように、ここもカップルみたいなもんですから。生まれて初めての別れるっていう経験は峯田かもしれないです。その後で奥さんだった。

九龍 一回、バンドでの別れを経験してたから、奥さんと別れるときは免疫があったんだ?

村井 いえいえ、デカかったですよ?

磯部 銀杏っていう熱狂が終わった時に、ふっと自分と向かい合う。そういう感じはあったんですか?

村井 自分と向き合いたくない。人生を振り返りたくない。

九龍 峯田君的には、ある程度、メンバーが抜けたあとの気持ちっていうのには整理がついたんですか?

峯田 うん。村井くんが抜けて、最初の半年くらいキツかった。やっぱり、どっかでまだ、村井くんと一緒にやりたいなって気持ちがあった。でも、パルコ劇場で『母に欲す』に出た頃くらいかな。もう後ろ見てらんねえって。

九龍 あの舞台もまた、ずいぶんと激しい現場だったしね。当時の峯田君と重なるような役だったし。

峯田 あの時期から、会いたいって気持ちから、顔も思い出したくねえわぐらいに変わった。まぁ、それは言い過ぎだけど。18歳でバンドを始めてから、そっから20年近く一緒にいたわけで。もはや結婚してたみたいなもんだよね。でも、そこからやっと抜け出せて友達に戻れた感覚があったんだよね。だから、本当は普段から俺はもっと会いたいんだよ。あの頃には話せなかったこといっぱいあるし。今なら話せる気がする。

村井 辞めてから一度も銀杏のライヴは観に行ったことなかったんですけど、この間、1月にリキッドルームでコレクターズと対バンした時に観に行って。客として観るのは20年ぶりくらいだったんですけど、なんか新鮮だったんですよね。っていうのは、GOING STEADYに入る前に5〜6回ぐらい観に行った頃と全然変わってなかった。俺、峯田の直線上、目線のところで観てたんですけど、

磯部 いままではドラムとして背中を見てたのが、初めて直で歌ってる顔を見たと。

村井 俺は、貫禄を感じたんですよ。変わらないひとって、貫禄あるんですよね。一人で嬉しくなっちゃって。飲みましたよ、その時は。音楽性とかは確かに変わってるんだけど、客席に向かってくる感じ……熱量は変わってない。

峯田 それは、後ろにいたからわかんなかったんだろうね。

磯部 俺は銀杏の再始動してからのライブを観れてないんですけど、峯田君としては元メンバーへの思いみたいなものは、いまは完全に吹っ切れたって感じなんですか?

峯田 チン君は全然連絡とってないですね。アビちゃんに関しても、共通の知り合いとかから「アビちゃん、頑張ってるねー」って言われるけど、俺、全然会ってない。

磯部 元メンバーのその後の人生が、気になるようなところはあります?

峯田 半分は自由にやってくださいって思う。でも、半分以上はもう……あんまり気になってないかも。ただ、みんな本当に楽しくやってたらいいなって。

九龍 2011年のライブとかさ、みんな研ぎ澄まされた顔してるよね。チン君なんて風貌もそうなんだけど、佇まいがほとんど修業僧みたいで。

磯部 当時を思い返してみると、その後にメンバーが次々と脱退して枝分かれしていくことが想像できなかったっていうか、個人が見えなかったんですよね。まるで塊みたいだった。各パートとかじゃなくて、全員でひとつのノイズを鳴らしてるっていうか。

村井 あの頃、ちょうどアルバムの半分はレコーディング終わってたんだよね。で、ツアー終わってすぐ東京に戻って「ぽあだむ」の歌録りしたんです。2008年のライジングサンの時は、各々自由なんすよ。一個の塊ではあるんですけど。

九龍 そうなんだよね。伸び伸びしてるもん。

村井 だけど、岩手でのライブはもう各々っていうのがなくて。切羽詰まってって。

峯田 笑えなかったもんな、あの頃な。

磯部 結構、負荷がかかってた感じ?

村井 負荷ってマイナスな感じは全くないっすけどね。表には出てなかったですけど、メンバーの中では常に戦ってはいたんですよ。

峯田 シンプルにいうと、2011年は生活かかってたんです。レコーディングがぐずぐずしてて、お金が入ってこない。もうちゃらんぽらんでやってらんねえなっていうのがあった。

村井 アレンジを何回もやって。その時その時のライヴが完成形なんですよね。だからレコーディングもゴールが見えてるんですよね。で、いろいろやれなくなってきて自由度が低くなる。

磯部 ようするに、延々と同じ曲をやってるから、アレンジを膨らませるみたいな余地がなくなって、研ぎ澄ませていくしかない。で、精神的にも追い込まれていくと。

村井 バンドとしてはすっごい良いことなんですけど。個人個人としては、割と切羽詰まっちゃう。

九龍 そのぶん、サウンドは後の『光のなかに立っていてね』に繋がるすごい領域にいってるんだけどね。

峯田 俺はなんとなく見えてたけど。周りは大変だっただろうな、あの時期。これがどういう作品になるかっていうのは、わからなかったよね。

磯部 ちなみに、新しいメンバーを見つけていく過程はどんな感じだったんですか?

峯田 最初は、ソロのプロジェクトじゃなくて、がっちり、あの4人で銀杏BOYZみたいな感じでやろうかなって思ってたんすよ。でも、アビちゃんと村井くんとチン君の、あの銀杏のグルーヴを求めるとまた失敗するなって。また、誰かにしんどい思いさせちゃうなって思って、それよりも、あれはもうやりきったもので、磯部さんの本のタイトル「音楽が終わって、人生が始まる」じゃないけど、次は俺が作った曲が主人公になるバンド。演奏が上手い人で、曲さえちゃんと形にしてくれる人ならいいのかなって思って。

磯部 ソロ・シンガーとして「峯田和伸」を名乗るのは嫌だから、「銀杏BOYZ」として続けたいとも言ってましたよね。

九龍 今回のコメンタリーを聞いてても、峯田和伸が銀杏BOYZから分かれているっていうか、峯田君が銀杏を客観的に分析しているのが面白かった。またあたらしい銀杏BOYZ像をつくるって感じ?

峯田 ああ、違うバンドに見えるっていうか、曲も同じのやってるけど違うんだよね。でも決して嫌な違い方じゃないんだよね。

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